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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)3020号 判決

事実

原告は請求の原因として、浦野牛蔵は昭和二十六年十月二十三日被告北田市平に対し金十五万五千円を貸与し、被告赤羽友吉及び被告渡辺徳久は被告北田のため右債務につき連帯保証人となつた。しかるに被告らは何らその支払をしなかつたところ、前記浦野牛蔵は昭和三十一年八月二十五日右債権を原告に譲渡し、同年九月十二日被告らに対しその旨債権譲渡の通知を発し、右は何れも翌十三日被告らに到達した。よつて原告は被告らに対し、右貸付元金十五万五千円及びこれに対する弁済期の翌日から日歩金三十銭の割合による遅延損害金の支払を求めると主張した。

被告らは抗弁として、浦野牛蔵と原告との本件債権譲渡は当事者相通じてなした虚偽の意思表示であるがら無効である、仮りにそうでないとしても、右債権譲渡は訴訟行為をさせることを主たる目的とするものであるから無効であると主張して争つた。

理由

証拠によれば、はじめ浦野牛蔵は被告らに対する本件貸金請求のため渋谷簡易裁判所に調停の申立をしたが、その際原告は浦野の代理人としてこれに関与しようとしたが許可されなかつた、その後に本件債権譲渡がなされたことが認められるけれども、このことから直ちに本件債権譲渡が通謀虚偽表示であること、もしくは訴訟行為をさせることを主たる目的としたものと認めるには十分でなく、その他これを認めるべき的確な証拠はない。むしろ証拠及び本件口頭弁論の全趣旨を併せ考えれば、浦野牛蔵はかねて第一相互銀行の無尽に加入していたが、その掛金を集金人に持逃げされたのを、多年銀行に勤めてその種の事務に通じていた被告らの斡旋で、右無尽を解約して金十五万五千円の返還を受けることができたので、これを求められるままに被告北田を主債務者、被告赤羽、同渡辺を連帯保証人として被告らに貸与したのであるが、被告らは約旨にもとずく弁済をせず、弁済期後に度々請求してもその支払を得られず、はかばかしく解決しないので、昭和三十一年八月頃前記のように調停を申し立てたが、被告らはこれに応じないし、代理を頼んだ原告が正式に代理人として許可にならなかつたりして嫌気がさし、結局原告に代金十五万円で本件債権を譲渡するに至つたものであることを認めることができる。この事実によれば、浦野牛蔵としては、自分ではその取立の困難な本件債権を対価を得て他に譲渡することによつて実質的に資本の回収を計つたものというべきであり、結果において原告は右譲受債権によつて本件訴訟行為に及んではいるが、これをもつて本件債権譲渡は訴訟信託のためにしたものと解するのは相当でない。

してみると、被告北田は主債務者として、被告赤羽、渡辺らは連帯保証人として、原告に対し各自右元金十五万五千円及びこれに対する弁済期の翌日から支払済まで金百円につき一日金三十銭の割合(本件については旧利息制限法の適用があるわけであるが、当時の金融財政等の事情、人的保証のほか物的担保の徴されなかつたこと、その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すれば、損害金につき日歩金三十銭の定めは未だ不当というには当らないと解すべきである。)による遅延損害金を支払うべき義務あること明らかであるから、原告の請求は正当であるとしてこれを認容した。

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